ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「なぁ、さっきの女、後で俺たちにもヤラせてくれるって?」


 兄貴が女に、何耳打ちしたかがどうしても気になる。


「くどこうとしたら、仲間呼ばれた。
 悪いな、皆人」


 兄貴はまた悪戯っぽく微笑む。


 俺の勘、大当たりだし、兄貴は女に東郷組の仲間をここへ呼ぶように言ったんだ。


 だから、呼ばれた仲間がここへ侵入できるように、わざわざカードキーを見張りの遺体へ戻しておいた。


 突然兄貴が「押せ!」と叫び、それを合図に、俺たちは力任せにベッドを横倒しのまま押し、盾にしながら見えない敵へと向かって前進した。


「どうして蔦山さんのためにそこまで…?」


 押しながら兄貴に問うと、さぁねと兄貴は照れ臭そうに笑った。


 とどめとばかりに目一杯力を込め、敵にぶつけんばかりにベッドを突き飛ばすと、兄貴は素早く踵を返す。


「飛べ、皆人」


 当然のように言い放ち、全面に張られたガラスに向かって、銃弾二発を撃ちこみながら走り出す。


 兄貴、そのガラスの向こうは、地上うん十メートル、生きて着地できるはずがない。


 けれども、ガラスに亀裂を作った二発の銃弾のうち、左側の一発は多分、俺の分。


 しぶしぶ俺も兄貴に続き、見よう見まねで前腕を胸の前でクロスし、助走をつけてガラスを突き破った。


 二人揃って、イン ザ スカイ…


 そして、暗闇を急降下…


 俺… 死ぬの…?


 恨めし気に兄貴を見やると、兄貴はまたしても余裕の笑みを浮かべて、口を動かした。


『心配するな、皆人。ここのプールは深い』


 爆風のせいで声は届かないが、兄貴の口はこう言った。


 見下ろすと、俺たちが向かう先には、確かにプールがある。


 けどこんな時期に水張ってあるか? たとえ張ってあったとしても、水冷たいだろ? 心臓止まる、止まってしまう! やっぱり俺、死ぬんだ…




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