ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
「富樫」


 木戸に名を呼ばれ、恐る恐る富樫は痛む鼻を押さえながらも木戸を見た。


「大丈夫か? すぐに手当てした方がいい。」


 優しい口調だが、その眼光は鋭く、その言葉が『早くここから出て行け』と命じているのだと富樫は悟った。


 すぐさま「はい」と答え、富樫はそそくさと部屋を出て行った。


 部屋に静寂が戻り、ドアの閉まる音がやけに響いた。


 ドア越しに立ったまま、木戸が多恵の方を振り返る。


 木戸が再び近づいて来る様子もないので、もう自分に手出しする気はないらしいと多恵は安堵した。


「で、どうする? お前が望むなら、今ここで抱いてやるけど!?」


 不意を突いた木戸の言葉に、多恵の中にたちまち激しい怒りが込み上げる。


「バッカじゃないの? 誰があんたみたいなオッサンと! 溜まってんなら、場末のスナックでも行って、欲求不満のババァくどいたら? オッサンのくせに、ちょっとばかしイイ男だからって、調子ん乗んないでよね。私みたいな若い女とやろうなんて、ずうずうしいのよ! ふざけんな!」


 怒りに任せて機関銃のように多恵は言葉を吐きだし、息まで切らしている。


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