ロシアンルーレットⅡ【コミカルアクション】
 ほんの束の間、多恵は木戸に大人しく抱かれていたが、突如、木戸を突き飛ばすようにして、後方へ飛び下がる。


 手には木戸が所持していた銃が握られていた。


「私が死ねば…」


 そう言って多恵は銃の筒先を顎下に当てた。


「バカか、お前? もう一度言うが、お前が今こんな目に合ってること自体、あいつが原因だ。あいつのためにお前が死ぬなんて、そんなバカな話あるか?」


「もう… 何も考えたくない。何も考えない。」


 そう言って多恵はゆっくり目を閉じた。


 今日に限って、持っていた銃が、安全装置のないリボルバーだったことを木戸は悔やんだ。


 引き金を引けば、たやすく発砲する。


「おい、待て! どうせ死ぬなら、その前に俺にやらせろ!」


 その言葉に、多恵は再び目を開くと木戸を睨み付けた。


 その顔は激しい怒りで強張り、燃えるように紅潮している。


 失敗か? 木戸は様子を伺うように多恵を見詰めた。


 が、多恵はゆっくりとした動きで銃を下ろし、そして、諦めたように呟いた。


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