幕末異聞―弐―
“先生…?”
“―――――”
“?”
“―――――”
“聞こえません!!先生!待って下さい!松陰先生!!!”
「…っ!」
床で寝ているというのに体が重い。
きっと最近よく見る夢のせいだろう。
――トントン
「吉田先生、宮部でございます」
「しばしお待ちを。すぐに身支度を整えます」
珍しく深い眠りに就いていたようだ。もうとっくに日が高く昇っている。
(宮部さんをあまり待たせるのも悪い。早く支度を…)
薄い布団から這い出て驚いた。
寝着が汗でぐっしょりと濡れていたのだ。気温はまだ初夏ということもあり、熱いというほどではない。それに、普段でもあまり汗をかかない自分が寝ただけでこんなに汗が出るなんておかしい。
「よほどあの夢に苦しめられているようだな」
あの日の事が忘れられない。
松陰先生は最後何と言ったのだろうか?
何故今そんなことが気にかかるのだろうか?
着替えながら考えるが、どちらとも自分の意識から離れてしまっている事柄のため、答えを導き出す事はおそらく不可能であろう。
「第六感…か。宮部さん!お待たせしました。どうぞお入りください」