幕末異聞―弐―


――ジャッジャッ…ジャリ…



「よぉ。やっと顔出したな」


菊の花束を手に持った小柄な男が前に佇んでいる長身の男に話しかけた。

話しかけられた男は顔だけ声の方向に捻る。


「晋作か…。久しぶりだな」

涼しげな目を細めて晋作と呼んだ男と向き合う。

「ふん!恩師の七回忌にやっと顔出しといて何が久しぶりだよ」

晋作は狐のように吊り上がった細い目で男を睨む。

「すまないとは思っているが、どうも気持ちの整理が付かなくてな…。
そうか。もう六年も経っていたのか…」

遠い昔を懐かしむような憂う様な表情で男は俯く。

「ああ。早ぇもんだ」

男の横を通り越して晋作はある家の門を潜っていく。

門の柱にはベニヤ板の看板が貼り付けられており、そこには達筆な文字で『松下村塾』と書かれていた。

男も晋作の後を追うようにして松下村塾の門を潜った。


「…玄瑞はどうしている?」

「さあな。江戸で松陰先生が斬首されてから、みんな散らばっちまったからわからねえ」

二人は長い間人の出入りした形跡が見えない小さな家に入っていく。


「…そうか。皆それぞれの道を行っているのだな」


「栄太郎…いや、今は稔麿か。お前はどうしてたんだよ?」

白菊の花を片手に前を行く晋作の足が止まった。

「この六年間、様々な人物に会って色々な話を聞いた。そしてやっと見つけたんだ。同志たちを…」

稔麿は晋作との一定の距離を維持しながら今までとは違う、力強い口調で話す。

「諸藩に討幕運動の思想が広がりつつある今が好機なのだ!」

稔麿はある部屋の埃を被った机の前にしゃがみ込む晋作に向けて熱弁する。


「…」


「これ以上幕府の勝手にはさせん!!今こそ、武士として立ち上がるべき時なのだ!!!だから高杉!お前も「悪ィな稔麿」


晋作は、持っていた花束を机の上にそっと沿えて立ち上がった。



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