幕末異聞―弐―


「…桂殿、さっき言っていた会合とはもしや…」


田中の脳にはさっきの桂との会話が蘇える。
桂は静かに起立し、腰に二本の刀を差して報告に来た若い藩士と目を合わせた。

「門は閉めているのか?」

襖に立つ若い藩士に詰め寄って落ち着き払った声で尋ねる桂。


「…え?はい。ここは池田屋からそう遠くないので、長州藩士が逃げ込んで来る事を想定して閉門しました」

長州藩士が逃げ込んで来た場合、長州と交友関係にある対馬藩まで倒幕派狩りに巻き込まれる恐れがあった。そのため、藩邸の門は固く閉ざされたのである。

「そうか。すまんが、その門を少しだけ開けてはくれぬか?」

「え?」

「か…桂殿!!それはいけません!今池田屋に行くのは自殺行為です!!」

田中は桂の頼みを若い藩士に代わって断った。

「自殺行為でも何でも同郷の人間を見捨てるわけにはいかない」

他の対馬藩士が心配そうに見守る中、両腕を横いっぱいに広げ田中は桂の行く手を阻む。

「し…しかしですね!」

「お通し願おう」

「何も貴方が出向かなくても…」

「退け!!!」

桂は今までに出したことのないような怒りの声を出した。
これには田中も驚き、押し退けられるままに体を移動させるしかなかった。
部屋にいた対馬藩士は、金縛りにあっているかのようにピクリとも動けない。

履物に急いで足を入れ、挨拶も適当に自ら藩邸の外と中を結ぶ門を開ける桂。
対馬藩邸を出た桂は、袴を捲くし上げ韋駄天走りで全力疾走する。


「稔麿…!生きててくれ!!」


桂は河原町通を悠長に歩く人々を掻き分けて池田屋を目指した。



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