幕末異聞―弐―

「随分ご活躍されたそうですね」


何回目かの定期健診を迎えた頃、床の横に座っていた松本良順が、桶で手を洗いながら沖田に話しかけた。

「いえ、私は何も。まさかあんな大事の時に熱病にかかるなんて…。情けないの一言ですよ」

恥ずかしそうに力なく笑う沖田に、松本は笑い皺のついた目を細めた。

「ほっほっほ。京を守るために命がけで刀を振るった。それだけでも立派でございますよ」

笑う松本とは対照的に、沖田の顔は何故か真顔になっていった。

「どうかなされましたか?」

出会ってから半日、終始朗らかな雰囲気を醸していた沖田の大きな変化に、松本は首を傾げた。


「……私は考える事が苦手なので、難しいことはわかりませんし、死ぬまで近藤さんの下で戦うつもりです。だけど…」

「…」

「だけど、本当に幕府の体制に疑問を持った者たちを斬るだけが京を守るということなのでしょうか?!」


「…沖田さん」

「無言で朽ちていった者たちは何を訴えたかったのですか?お互いの意思を確かめ合う事もせず、ただ刀を振るって何が理解できるのですか?何も言わないで斬り合ってても何も解らないんです…」


布団を力いっぱい握り締め、俯いた沖田の声は弱りきっていた。


「沖田さん。貴方はまだ若い」


「…え?」

松本は手を拭いた手拭を丁寧に折りたたんで懐にしまった。

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