幕末異聞―弐―

「武器じゃ」


「…」

坂本の顔面目掛けて人差し指を突きつける中岡から発せられた言葉は、坂本の表情を険しいものにした。

「倒幕の旗を掲げた藩には、幕府の厳しい目がつき物じゃ。武器の調達らぁて早々できるものがやない。そこで、わしら陸援隊と海援隊の力が役に立つ。英吉利(イギリス)から仕入れた武器を流すことを条件に、諸藩に同盟を組ませるのだ」

鼻息を荒くして熱弁する中岡とは対照的に、坂本の目はどんどん冷たくなっていく。


「…気が進まん」

いつも陽気な坂本の声とは思えないほど小さく、不機嫌な声で中岡の話を遮る。だが、中岡も負けじと声を張り上げて坂本を必死で説得する。
中岡のこの計画は、陸援隊と海援隊の力を合わせて初めて成り立つものだった。そのため、中岡にとって坂本の了解が絶対不可欠なのだ。

「なぜじゃ?!今必要なのは幕府を上回る兵と武器だ!諸藩だって各々の利益を考えればわりぃ話がやないはずじゃろう?!!」

「武器はいかん!!」

「龍馬ッ!!!」

「武器はいかんのじゃッ!!」

坂本は酷い癖毛の髪を振り乱して激しく首を左右に振る。頑として話を聞こうとしない坂本に、中岡は苛立った。


「…何故そこまで拒むが?」


中岡はふつふつと沸き立つ感情を抑え、腕組みをして俯く坂本に尋ねる。

「何かあるはずなんだ。血を流さないで解決する方法が…。わしらは皆人間なんやき言葉で「龍馬!!」

聞くに堪えかねないという顔をして、中岡は坂本の言葉を遮った。

「おまんの夢物語のようは話を聞いちゅう暇はもうない」



――綺麗事だ。理想論を語ることなんざアホでも出来る。


――何かを変えるには多少の犠牲はつきものです。


今になって坂本の心に刺さる少女と吉田稔麿の言葉。


――言葉を交わせば必ず解り合える


そう信じて行動してきた坂本にとって最も残酷な現実であった。



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