人こそ芸術 part1
僕の気持ち
翌日、僕は病院の屋上に居た。
本当は今すぐにでも母親である院長に結婚の了解を得たかったのだが、残念ながら院長は出張中で来週の火曜日にならないと会えないのだ。
夕日の光を眩しく反射させる手すりを掴み、オレンジ色に輝く景色を眺める。
風が白衣の裾を泳がせる。
「気持ちぃーなぁ」
両手を広げ伸びをする。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「目黒先生」
僕の背中に声をかけたのは櫻井舞。
僕が呼び出したのだ。
栞との結婚を約束した今、いつまでも先延ばしにはしていられない。
「お話って返事のことですよね?」
櫻井舞は燃える様に輝く向かいのビルを見つめ苦笑いをした。
「こんなに時間を空けてしまってすみません」
櫻井舞の横顔に軽く頭を下げる。
「謝らないで下さい。先生は悪くありませんから」
櫻井舞と向き合う。
屋上に背景は夕日。
映画やドラマなら最高のシチュエーションだと言える。
でも僕はこの最高のシチュエーションの中で告白を断るのだ。