猫になって君にキスをして

とにかく避難だ。


男のジーンズをくわえようとしたが、やはり食い物以外を口に入れる気にはなれず、ジーンズに爪をグイと差し込んで引っ張った。


「お、おい、なんだ?」

「にゃ!」

「外か? 外に出るんだな?」

「にゃ!」

「あの、すみません。また来ます」


そう言うと男は片瀬からガーベラを受け取り、オレと共に赤レンガへ出た。


「なんだよ、どうしたんだ、猫」

「にゃにゃ!」

(感謝しろ!)


男の肩ごしに、片瀬のオニのような形相が見える。


「にゃにゃっ」

(今だ、振り向いてみろ!)

「え?」


それが通じたのか、男はおもむろに振り返った。


「えええっ?」

「あ、ありがとうございましたぁ」


片瀬、取り繕うも時既に遅し。

可憐な笑顔はゆがんでいる。

ひっでーブスだ。


ごめんな、男。

お前の夢を壊して。


でもオレの夢も壊れたんだ。

っていうか、オレなんか蹴られてんだぜ?


飛んだんだ、空中を……。


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