隠す人

「社長の意志は、お前に転勤命令が下った時点で分かっただろう?」

悩む二宮に、佐伯課長はたたみ掛ける。

「社長は都合の悪い事実を知ってしまった人間を消そうとしたんだ。その事実が明るみに出たら、社長の失脚だけじゃ済まない。この会社のお陰で生活できている、何千何万もの家族がいるんだ。それを守るために、社長は事実をもみ消すことにしたんだよ」

二宮が、口を開いた。

「普通に考えれば、そうかもしれません。でも、それでは社長の行動に説明がつかないことがあるんですよ!」

普通に考えれば、そうだ。
自分がいなくなれば、二重帳簿の存在を知っている人間は、それに加担している人を除けば社長一人になる。
秘密は、知っている人が少なければ少ないほど、守られるだろう。

それでは、
それではなぜ、社長はあの時あんな事を?

二宮の中で、「あの時」社長が取った不可解な行動が、今も説明のつかないまま、ぐるぐる回り続けていた。

「何の行動がだ?」

「・・・これ以上は、お話できません」

その時。

扉が密かに閉じる音が、二人の耳に届く。

「・・・しまった。話を聞かれた」


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