Separate World
「じゃあ、せめて妹の部屋使え。俺の部屋の隣にあるから」
「え、桐生って妹さんいるの?」
蒼依は、耳にした新事実に驚きながら聞き返した
「あぁ、二歳下の妹が一人。別にこっちの世界に妹がいるわけじゃねぇし、必要なもんがあるなら好きに使えば?」
「うん。……でも、お願いだから明日置いていったりしないでね!」
蒼依が念を押すように言ったが、隼人は返事もせずに部屋を出ていった。蒼依は渡された拳銃を抱え、慌てて隼人に続いて部屋を後にした。
「そこ、妹の部屋」
隼人が自室の隣の部屋を指差しながら素っ気なく言った。その部屋には『亜子[アコ]の部屋!勝手に入るな!』と書いたカラフルな表札がぶら下がっている。
「ありがと。あ……ねぇ、お風呂借りてもいいかな?」
一日の終わりに風呂に入れないなんて耐えられない……そんな思いを胸に、蒼依が問い掛けた。
「どうぞご自由に」
隼人は気のない声でそう言うと、自室のドアを開けて中に入っていった。
この広い屋敷内で風呂場を見つけるのにはかなり手間取った。が、蒼依はやっとの思いで探しだし、少し緊張気味に中を覗いた。
桐生家は、風呂さえも他の家とは一味違う。脱衣所も広く、大きな湯舟は足を延ばして座っても余るほどの長さがある。
蒼依は慣れない広さに恐縮しながらも風呂に入る準備をし、中に入った。
一日の汚れと疲れをシャワーで流し、湯の溜まった湯舟に浸かると、今日あった出来事が次々と頭の中に駆け巡る。
――お母さん、今頃何してるんだろうな。
嫌でもよぎる母のこと。脳裏に浮かぶのは、男と一緒に幸せそうに笑っている顔ばかりだ。
蒼依はそんな光景を掻き消すように頭を振り、勢いよく湯舟を出た。これ以上余計な事を考えたくなかったのだ。
着替えがなかったため、蒼依はさっきまで着ていた制服に再び袖を通し、隼人の妹の部屋に戻った。
倒れ込むようにベッドに転がると、たまった疲労が蒼依のまぶたをゆっくり落としていく。
――明日、本当に放っていかれたらどうしよう。桐生ならやりかねないかも。
蒼依は一抹の不安をかかえたまま、静かに眠りについた。