月と境界線

夕陽

今この瞬間が僕の知っている日本、大人たちは毎日工場の煙りに包まれ輝きをなくしていた
僕たちは義務教育なんてない時代に生まれ軍事訓練と自給自足を余儀なくされ、分かっている事はフランスという国が日本を支配している事、僕たちにはなんら変わらない毎日が過ぎ、ただ空白の時間が存在するという事。
生まれる前の事なんて教科書にすら載っていない空白の歴史、大人たちは口をそろえて言う、お前たちは知らなくていいと。いつしか僕たちは大人たちに不信感を覚え、大人たちは僕たちを避けるようになった。

夕焼け空にフランス空軍の偵察機が体を赤く染め北へと飛んでいく、見慣れた光景で幼少の頃からなんの変わりもない、今歩いているこの道も、高台から見下ろす街並みも、この時は赤く染まり、同時に夜の始まりを告げる。
月明かりがさす頃僕はアジトのシャッターを上げ物置のような倉庫を抜けリビングと呼んでいる所にいた。
「遅かったなぁ」
ここをアジトと呼んでいるもう一人の住人、拓弥 こいつとは幼なじみで一緒に家をでてここに来た、見た目よりしっかりしている、掃除、洗濯はやってくれてるし、料理も拓弥が作る事が多い。
「今日また親父さんが来てたぞ、お金と手紙だけ置いてすぐに行っちまったけど。やっぱ葵の親父さんは違うよなぁパリッとスーツとか着ちゃってるもんなぁ」
親父とは半年ほど会っていない、といより避けてきた。
親父は医療関係の仕事をしていて今はフランス側の引き抜きでどっかの研究所で働いているらしい、それ以上の事は知らないし知りたくもなかった。
フランス側の人間、親父はそういうレッテルを貼られた、言わば売国奴、そんな親父を好きになれなかった。
一通の手紙を見るまでは・・・
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