あの虹をくぐれたら
再び自転車をこぎはじめた。



黒いサドルは焼けるように熱くなっていた。



「ひゃー、やっぱ暑いねぇ。」



彼女は汗をぐっとタオルで拭った。



そんな姿も僕にしてみたら愛おしくて仕方がなかった。






やがて海岸の砂浜は姿を消し始めた。



ごつごつした岩場が辺りに連続している。



「砂浜終わっちゃったよー!?」



横に並んで話しかけてくる。



「うん、あと少しだから。」



「そお?ならいいけど。」



彼女は微笑むとまた僕の後ろについた。








「さぁ、ついたよ。」



僕は自転車を向かいのコンビニの前に止めてぐっと背を伸ばした。



「ホントに?これコンビニじゃん。うちの前にもあるよ。」



時々彼女はこういった冗談を言う。



天然なのか、ネタなのか。



僕はさらっと流して海岸に降りていった。



「コンビニじゃないんだ。」






天然だった。





誰が好んで四十キロ先のコンビニまで自転車で買い物にくるというんだ。



「足場悪いから気をつけて。」



僕は彼女の手をひく。



強く握られる瞬間が堪らなく嬉しい。



僕は片思いの欲求不満な男か。



自分で冷静に突っ込む。



やがて目的の場所が見えてきた。



相変わらず岩場である。



岩礁に波が時折強く打ち付けてくる。



その度に彼女は身を縮こまらせる。



それが可笑しくて僕は何度も小さく笑う。



「さ、ついたよ。」



「うわっ、すごいねこれ。自然が作ったのかな?」



「多分ね。」



そこには雨を丁度しのげるような小さなくぼみがある。



二人がおそらく限界だろう。



人魚が休みに来るのか、便利な事に岩が平らな椅子のようになっている。



「こんなところ、よく見つけたね。」



「前に一度ここに友達と釣りに来たんだ。」
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