紡歌<ツムギウタ>
辿り着いたのは真っ白な門。
その門をくぐり抜けると、目の眩むような美しい庭園が広がっていた。
やっと還るべき場所に……天に還れた。
恋い焦がれていた天は、明るくて美しくて……現世での疲れを癒してくれる。
雲の上にあるにも関わらず大きな樹木や色とりどりの草花が存在し、下界とは明らかに違う澄んだ空が一面に広がっていた。
私はここで、次の生を待つ。
大好きな親友も、頼れる死神仲間も、大切なパートナーである黒猫も、ここにはいない。きっと、もう二度と会うこともできないだろう。
だけど……迎えてくれたのは、五つの魂。
「キズナ、お帰り」
限りない"愛"を現世に遺した、悲しき男性。
「死神さん! また会えたね!」
"咲"き誇る花の如く精一杯生きた、優しき少女
「君もやっと来れたんだね……良い顔をしているよ」
自らを投げ捨てて命を"繋"げた、強き男性
「キズナ、これで一緒に前に進めるね」
"夢"に向かってひたむきに生きた、逞しき女性
「来るの遅ぇんだよ。そんなにのろまだと、転生できねぇぞ」
殺された"怨"みを越え、仲間を愛した青年
キズナは顔を綻ばせ、まばゆい光に囲まれた庭園へと足を踏み入れる。
全てを終えた者が帰り着く、幸せな場所。苦悩も辛さも忘れ、ようやく新しい一歩を踏み出せる。
「死神さん、蓮華草の花言葉……覚える?」
キズナの耳に届いた囁き声。その声に、キズナは柔らかい笑みを浮かべる。
「……ええ、もちろん」
――私は苦しみから解放された。あなたが言っていた通りに、ね。
≪END≫