雪花-YUKIBANA-

「じゃあさ、今日は俺がメシ作って待ってるよ」

「拓人が?」


桜子はまるで奇妙なものでも見るように、目をみはって驚いた。


「おかしい?」

「おかしくはないけど……」


作れるの?
と遠慮がちに窺うような声で彼女が言う。


「失礼だな。これでも一人暮らしが長かったんだからな」

「そっか」

「ただし、そんなに凝ったものは用意できないよ?俺も夕方から仕事だから」

「うん、楽しみにしてるね」


桜子はにっこり笑って、玉子焼きの最後の一切れを頬張った。






彼女を見送ると、僕は部屋をさっと掃除した。


桜子のおかげで普段から整頓されているから、別に散らかっているわけじゃない。


けれど、これから叔父が来るのだと思うと、プライベートな物は片付けておきたかったのだ。



僕は壁にかけた洋服をたんすに仕舞い、

スケジュールの書き込まれたカレンダーを外した。


テレビの上の写真立ては、そのままにしておいた。


僕と桜子の、

ツーショットの写真だ。



< 196 / 348 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop