雪花-YUKIBANA-
「じゃあさ、今日は俺がメシ作って待ってるよ」
「拓人が?」
桜子はまるで奇妙なものでも見るように、目をみはって驚いた。
「おかしい?」
「おかしくはないけど……」
作れるの?
と遠慮がちに窺うような声で彼女が言う。
「失礼だな。これでも一人暮らしが長かったんだからな」
「そっか」
「ただし、そんなに凝ったものは用意できないよ?俺も夕方から仕事だから」
「うん、楽しみにしてるね」
桜子はにっこり笑って、玉子焼きの最後の一切れを頬張った。
彼女を見送ると、僕は部屋をさっと掃除した。
桜子のおかげで普段から整頓されているから、別に散らかっているわけじゃない。
けれど、これから叔父が来るのだと思うと、プライベートな物は片付けておきたかったのだ。
僕は壁にかけた洋服をたんすに仕舞い、
スケジュールの書き込まれたカレンダーを外した。
テレビの上の写真立ては、そのままにしておいた。
僕と桜子の、
ツーショットの写真だ。