雪花-YUKIBANA-

それから僕たちは食事に没頭した。

思ったより空腹だったらしく、麺はするするとお腹に入っていった。


いつの間にか、他の客は帰っていなくなっていた。


「あの……これ、良かったら」


男の声がして、僕とコバは同時に顔を上げた。


「サービスですから食べてください」


小柄な体を割烹着に包んだ男性が、やわらかい笑顔で僕らを見下ろしている。


彼が差し出した皿の中身を見て、僕らは仰天した。


「え、これ」

「……なんで肉ジャガ?!」


そう突っ込んでコバは大笑いした。


お皿に盛られているのは、正真正銘、日本の味・肉ジャガ。

そして僕らが今いるのは、正真正銘、中華料理屋だ。


「いやあ……実は私、中華よりも和食が好きでして」


笑われているのを気にする様子もなく、男は嬉しそうに話す。


――そうか。

彼が、桜子の言っていた“実は和食党の店長”なんだ……。


何度も彼女の口から聞いていた人物が、今、目の前にいる。


「中華に合わないと思いますけど、ぜひ召し上がってください」


よっぽどツボにはまったのか、コバはケラケラと笑っている。


そして僕は、

なぜだか、涙が出そうになる。

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