雪花-YUKIBANA-
「着いたよ」
そう言って僕は車を止めた。
桜子はシートベルトを外すと、
まるでおもちゃ屋さんに連れてこられた子供がそうするように、
目を輝かせて車から飛び降りた。
続いて僕も外に出て、小走りの桜子の背中に呼びかける。
「なあ、ホントにこんな所で良かったのか?
せっかくの卒業記念なんだから、もっと遠出しても――」
「いいの」
セーラー服のスカートをふわりとひるがえし、彼女が振り返った。
「拓人とここに来たかったの!」
春の穏やかな日差しの下で、開きかけのピンクのつぼみが小枝を飾っている。
昨夜、卒業式のあとで行きたい所はあるかと訊いたら、
彼女はまっさきにこの場所をあげた。
桜の名所、と呼ぶにはいささか大げさな、いたって普通の公園だった。
江戸時代の城跡を利用した広めの敷地に、
コスモスやスイセン、
もみじの木なんかが植えられていて、
今の時期は五分咲きの桜が、ほのかに彩りをそえている。
花見客もまばらな公園を、桜子とふたり、並んで歩く。
散歩中の子犬がしっぽを揺らしながら僕らを見ている。