あたしと彼と白いキャンバス
泣いている先輩はこの世のものとは思えないほど綺麗だ。



黒い瞳から涙を零すたび、

長い睫毛がか弱く震える。



あたしは人間の感情の発露はもっとおぞましく生々しいものだと思ってたし、

今まさに酷く身勝手な感情を吐露しているにも関わらず、

目の前の先輩はどこまでも綺麗だった。


まるでローレンス・アルマ=タデマの絵画に潜む住人のよう。



「先輩…」


あたしは先輩の顔に手を伸ばす。

はじめて触れた頬は滑らかだった。



その刹那、心が軋むのを感じた。
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