あたしと彼と白いキャンバス
8.恋する乙女
最近、あたしは絵を描いていない。


描きたい。

この感情を吐き出したい。


そう思うことが失われてしまったのだ。

前は頭がおかしくなるんじゃないかと思うほど、絵を描いていたのに。




――原因はわかっている。


あたしは部屋の隅に目をやった。

白く塗られたキャンバスが裏側になって壁に立て掛けられている。



あの絵の具は、あたしの心まで塗りつぶしてしまったんだろうか。

誰かの悪意はあたしの精神を疲弊させることに成功していた。
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