空色バラード
そして私はその医者に連れられ、診察室へ入った。
そこで言われた。
「記憶障害」と言う言葉。
私の名前は「青柳 空」
歳は「17」
何かの事故に巻き込まれた。
私の脳は正常に動いているけど、記憶っていうクローゼットの引き出しがなくなったらしい。
…生きてる。
だけど記憶が無い。
何の事故に遭ったのかも解らない。
……私は何なの?
俯いている私に医者は言った。
「青柳さんの障害はすぐには治りません。けど少しずつ治っていきます。とりあえず怪我を優先して治しましょうか」
医者は私に歯を出して笑った。
名前は藤原 圭吾30歳。
6歳の娘がいた。それは机の上の写真が物語っている。
藤原の話を聞き終わり、私は505号室に戻ろうとした。
…でも戻る方法が解らない。
仕方なく院内をさ迷っていた私に知らない男が話し掛けてきた。
「あんた何してんの?」
長身で少し茶色の髪色をした男が目の前に立つ。
「505号室を探してるの」
私は小さく呟いた。
男は驚いた顔をして、笑った。
「ここの上の階だよ」
八重歯を出して笑う顔は、何とも言えなくなるくらい爽やかだった。
「酒井くん待ちなさい!!」
後ろから看護婦が走ってくる。
「げ、ヤバ」
男はその声を聞くと走り出す。でも途中で振り返って私に叫んだ。
「またなーっ」
私はどうすれば良いのか解らず、ただ呆然と見ていた。