~LOVE GAME~


後ろから声をかけられ、振り返る。

「た、龍輝君……」

後ろにはズボンのポケットに手を突っ込んだ龍輝君が立っていた。
授業中に見ていたことを思いだし、気まずい気持ちになる。
龍輝君はスッと横に立ち、ピッと苺ジュースを押した。

「あ……」

ガコンと音を立ててジュースが落ちてくる。
私が取り出す前に、龍輝君が先に取り出した。そして、“ん”と苺ジュースを差し出した。

「ありがとう」

差し出されたジュースを取ろうとする。
でも……。

「あの……?」

ジュースを受け取る前に、ひょいと上に持ち上げられてしまった。
と、取れない。
背の高い龍輝君にジュースを持ち上げられてしまうと、小さい私には届くわけもなく……。

「龍輝君? とれないよ。返して?」

困った顔の私をニッコリ見下ろしている。

「お昼食べた?」
「まだだけど……」
「じゃぁ、弁当持って一緒に来て」

持ってきて? 一緒に? どこに?
そもそも何で?

「えっ、でも、友達が待ってるから……」
「じゃぁ、断って」

何を勝手な!
私はムッとした顔で龍輝君を見る。
私のその顔を見て、龍輝君は苦笑した。
そして、軽く屈んで私にこう囁いたのだ。

「言ったよね。俺の言うこと聞いてって。傷のことみんなにバラすよ? いいの?」
「うっ……」

龍輝君は意地悪くニッコリ微笑む。
悪魔の笑顔だ!
私は言い返せず、黙り込んだ。

「じゃぁ、そーゆーことで、いつものとこで待ってるから」

そう囁いて、苺ジュースと一緒に去って行った。

何あれ……、強引すぎる。
でも傷のこと、黙ってて欲しいしなぁ……。
しばらく考えてから、諦めてため息をつく。
仕方ないよね。
龍輝君には傷を残しちゃった責任もあるし……。
教室に戻って、ちなに龍輝君の所へ行く用事が出来たと伝えると、「今すぐ行っておいで」となんだか嬉しそうに言われた。
私はちなに謝って、足取り重く集会室へ向かった。

誰もいない……。

集会室の中を横切り、龍輝君の言う“いつものとこ”へ向かう。
扉の前で小さくため息をついた。
トントンと扉を叩いてゆっくり開ける。

「おっせーよ」

低い声で軽く睨まれた。
自販機の前での声のトーンは何処へやら。
ニッコリ微笑んでいた爽やかな王子はそこにはいない。

絶対、二重人格だよ!

こうも裏表がハッキリ分けられるなんてある意味感心するけどね。
しかも…そのギャップに戸惑ってドキドキする私が情けなく感じる。



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