~LOVE GAME~



「軽っ…」

私を引っ張り上げて、木の太い幹に乗せた龍輝君が呟く。
あのころは大きかったこの木も、今では二人で並んで座ると少し窮屈だ。
肩を寄せ合って、くっつかないといけない。
どうしよう、緊張して身体が強張る。心臓の音が聞こえるんじゃないかとさらにドキドキした。

「今じゃぁこんなに小さい木なのに、あの頃は凄くでかくて……。こんな高さから落ちて怪我するくらいだもんな」
「龍輝君……」

間近に見える龍輝君の顔は、昔を思い出しているようだった。
私は龍輝君の傷の辺りに手を伸ばして触れた。
龍輝君は驚いたような顔で私を見つめる。

「楓?」
「あっ、ごめん」

ハッとして手を引っ込めようとしたがその手を龍輝君に掴まれた。

「あ、あの、今でも痛むのかなって思って……」

慌てて言い訳をする。
気が付いたら触っていたなんて、そんな痴女のようなこと恥ずかしくて言えない。
私が焦っている間も、龍輝君に手を掴まれたまま。さっきよりさらにその近さを意識し、ドキドキが激しくなる。
ど、どうしよう。手を離してくれない……。
龍輝君の手は、すっぽりと私の手を包み込む。

「龍輝君、離して?」

長い沈黙の中、やっと声をしぼり出す。
龍輝君は私を見つめたまま静かに低く言った。

「離していいの……?」

その声にドキッと心臓が激しく高鳴る。
ギュッと掴まれるような、甘い切なさ。
そして、貴島君には決してなかった胸の苦しさ。
苦しいのに……。
苦しくて、上手く呼吸が出来ないのに……。

「離さないで……」

自分で自分の言葉に驚いた。
でも……、それが私の本心だった。
離さないでほしい。
ずっと触れていてほしいし、触れていたい。
私だけを見つめていてほしい。

「ゲームは私の負けだよ」

負けだ。
龍輝君に惚れたら私の負け。

「私、きっと初めから負けていたの。それに、気がつかないふりしていただけだった……あっ……」

言葉が終わる前に、私は龍輝君の腕の中に引き込まれた。
背中に腕が回されて、ぴったりと密着してギュッと抱きしめられる。

「たっ、龍輝君っ」
「おっせーよ、認めんの」

耳元で龍輝君が苦笑しながら呟く。
それが、余計にドキドキさせてどうしていいかわからなくなるほどだった。

「楓。負けってことは、俺に惚れたってことでいいんだよね?」

“惚れた”
改めて言葉にされると恥ずかしいな。
腕の中で、小さく頷く。
すると、さらにきつく抱きしめてきた。

「俺が好き? 貴島じゃなくて?」

貴島君の名前を出されて、ハッと顔を上げる。
すぐ目の前には龍輝君の綺麗な顔があった。
真っすぐ私を見下ろして、返事を促してくる。

「貴島君とは一週間だけ付き合って欲しいって言われてただけで……。さっききちんと返事をした」

ちゃんと、告白の返事はした。




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