宵闇
優しい愛。
彼は、目がとても優しくて、メガネがよく似合う人だった。

言葉も、

しぐさも、

カラダも、

全て、優しさでできているような人だった。

優しさで出来ている彼に、アタシは恋をした。

彼がくれる電話は、冷めていたアタシの心を温かくしてくれた。

彼が差し出してくれる手はアタシの手を包んでくれた。

彼が投げかけてくれる言葉にアタシは素直に泣いた。

初めは彼の優しさにアタシは戸惑った。

優しくされたことなんかあかったから。

彼はアタシを色々な意味で認めてくれた。

コンプレックスも、

良いところも、

ありのまま受け入れてくれた。

何かあるたび、優しく諭してくれた。

彼の心は温かかった。

でも、アタシはいつからかそれに甘んじるようになってしまった。

彼がいないと寂しい。

彼に褒められないとやる気が起きない。

彼が傍にいないと仕事にいく気持ちにならない。

アタシは彼に依存していった。

そんなアタシを最初は彼も理解し、諭そうとしたけれど、

彼も人間。

そんなにいつも優しいわけじゃない。

いつのまにか心が離れてしまい、優しくなくなってしまった。

アタシは、彼が離れることが寂しかった。

母親に捨てられた気持ちにさえなった。

泣いて叫んでも彼の意思は変わることなく、アタシの前から去っていった。

アタシは、ひとりになった・・・。

あれから3ヶ月。

彼との接点はない。

きっと優しい彼に戻っているんだろう。

優しい目をした彼に・・・。

アタシは、彼がいなかった日常に戻った。

でも、彼から教えられた愛、優しさは忘れずに覚えていて、

少しずつだけど自分に取り入れようと試みている。

彼は去っていってしまったけど、

彼が残してくれた『優しい愛』はアタシの中で生きようとしている。
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