そして悪魔は二度微笑む【コラボ】
午後11時、ベリル・レジデントは一人、リビングでブランデーを傾けながらPCに映しだされた化学式を見ていた。

ニナは、隣の部屋のベッドに寝かせてある。若い彼女が寝るにはまだ早い時間。そうは思わないでもないが、彼女もまた疲れていたのだろう。

彼女の話は、至極単純な物だった。どこかの研究所で働いていた父が、突然帰ってくるなり逃げると言い、黒服の男達がそれを追いかけて来た。

そしてどうにも逃げ場が無くなった時、彼女の父は母の写真が入ったペンダントを渡すと、彼女を逃がしてくれたと言う。

それを聞いたベリルは、ペンダントに興味を持った。相手がどういう目的であれ、直接関与していない少女を捕まえるには、あまりに過剰すぎる反応であったからだ。

だとすれば、理由は彼女が相手の必要な物を持っていると考えられる。

ペンダントを借りて調べると、案の定母親の写真の裏に隠されたマイクロチップが見つかった。

「これは……」

正確なシミュレーションをおこなえる程には、PCの能力は高くない。

だが、人のDNAに変化をもたらすだけでなく、肉体細胞に瞬時に激変をもたらす物であると言うことはわかった。

「こんな物を……。これは人に使っていい物ではない」

ベリルの胸の内に静かな怒りが沸き上がる。

人は何故こんな物を作れるのだ。

彼は、ギリリと奥歯を噛み締め心の内で、眼に見えぬ何者かに問う。

その時、ベリルの携帯が震え、見覚えのある番号が表示された。

「ベリルだ」

『ルカだ。ベリル、今回の相手は相当ヤバいぞ。東南アジア一帯をしきる武器商人、グラン・マッコイだ』

「……死の商人だったか? ニナの父親は、奴の所から研究データを持ち出してニナに渡した」

『そういう事か……。やるのか?』

死の商人……。

その施設に攻撃を仕掛けるのであればかなりの危険が付きまとう。

ベリルは、思案する。ニナの父親を救出するのであれば、出来るだけ早い方がいい。しかし、急いで攻撃を仕掛けて勝てる相手ではない。

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