溺愛プリンス

王子とリュンヌ・メゾン



ハルが言っていた”リュンヌ・メゾン”は、ファブリック伯爵のお屋敷の裏庭を出て、林の中を少し歩いた先にあった。

ショーンさんも知らなかったその場所は、クロードさんだけが知っていて。
あたしがその名前を出すと、アクアマリンのその瞳を少しだけ潤ませた。





「……ここだ」



錆びた高い柵に囲まれたその庭は、鬱蒼(うっそう)としているように見えて、すみまで計算しつくされていた。

その中にひっそりとたつ、小さな……小さな家。
どこか懐かしくも感じるその家は、一国の王子様とはまったく無関係のような、そんな気さえしてしまう。


モスグリーンの屋根に風見鶏。
真っ白な壁に幾重にもはりついたツタ。
まわりには、色鮮やかなバラが甘い香りを漂わせていた。


月夜に浮かび上がるそれは、本当に幻想的で。
……キレイだった。




古びた玄関のドアノブに手をかけて、すぐに違和感を覚えた。



ん?

あれ、うそ!カギ……かかってる?

何度ドアノブをまわしてみても、ガチャガチャって音がするだけで……。



ど、どうしよう。
ここで待ってるべき?


でも……いつまで……。






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