溺愛プリンス
ハルの隣には、国王の姿。
その後ろには王妃とベスが控えている。
テレビのニュースで見た事のあるシーンだな……。
冷静になると共に、胸の中が言いようのない想いでいっぱいになった。
喉の奥が痛くて、瞼の裏側が熱い。
唇の感覚がマヒしてしまったみたいで、震えた。
体中に響いていた歓声も遠のいて。
目の前の出来事に現実味がなくなっていく。
だけど、不思議と涙は出なかった。
頭の中が真っ白って、こういう事を言うんだな。
ほんとうに何も考えられなくなってしまった。
あたしが今ここで、何をしてるのかも。
どうして、あそこにいる王子様を眺めているのかも。
この歓喜の意味も。
「……手の届かない人なら……、こんなふうに離れ離れになってしまうなら、そんなのいらなかったよ……」
ただ、それだけだった。
今まで味わったことのない虚無感。
心の中にぽっかりと穴が開いてしまったみたい。
悔しいのか。
悲しいのか。
わからない。
なにもかも、わからなかった。
その時、不意に右手首がグイッと掴まれた気がした。
瞬間景色が歪む。
人波をかき分けて、マルクがあたしを引いて走る後姿が見えた。