溺愛プリンス
掴まれた手首が痛い。
これでもかって程強く握られる。
「ま、マルクさん、痛いっ、」
引っ張られてる腕を引き戻しながらそう訴えると、マルクはこちらを振り返らずに言った。
「なにボサッとしてんだよ、まだ決着ついてねぇだろ」
「……え?」
「本当にハルが結婚しちゃってもいいのか? 本当にお前はそのままハルの結婚見届けてのこのこ日本に帰んのかよ! 俺がこうして協力してやってんだ。なにもせず帰るなんて、そんなの許さねえから」
マルクさん……。
痛い言葉だった。
どうして? どうしてみんなそんなに一生懸命になってくれるの?
ベスも、マルクさんも……ショーンさんもクロードさんも。
みんな、みんな。
でも、どうしたらいいの?
大勢の人の注目を浴びているこの国の王子、ハロルド。
あんな遠くにいる人には、あたしがここに来てることだって気付いてもらえない。
足がもつれそうになりながらも、必死でマルクについて行く。
考えても考えても、どうしたらいいのかわからない。
ベス達の期待に応えられるかわからない。
やっぱりたかが一般人のあたしには……、
そう思った時、グイッと手を引かれそのまま押し出された。
「……っ、」
一歩、また一歩と歩みを進め、ようやく立ち止まる。
見上げると、ずいぶん近くにあのバルコニーが見えた。
あそこにハルがいる。
ここなら、ハルの顔がちゃんと見える……。