溺愛プリンス


……それを見て、思い浮かぶのは。
美味しそうにおまんじゅうを頬張る、ハル。



「……」



フルフルと首を振ってそれをかき消すと、のれんを胸に抱えてお店の中に戻った。





……あれ。


ハッと顔を上げる。
照明を落とした店内に、篤さんがいた。

真剣な横顔。





……トクン




「……」



その指先から、なんとも繊細な和菓子が産み落とされる。
思わず見惚れていると、篤さんがあたしに気付いて顔を上げた。




「……あれ、志穂ちゃん。 まだ帰ってなかったんだ」




真剣な顔が一変、人懐っこい笑顔。

その事になんだかホッとして、あたしは篤さんの傍に歩みよった。



甘い、甘い砂糖の香り。


篤さんの……香りだ。





「……新作、ですか?」

「……ああ、これ? んー、まぁね。ほら、食べる?」



手の中に納まっていた、かわいらしい和菓子。
篤さんはそれをあたしに差し出した。


 


< 51 / 317 >

この作品をシェア

pagetop