A線上の二人

 じゃあ、あの人はなんなんだろうか。

 サラッサラの黒いストレートの長い髪。

 キメの細かそうな白い肌。

 涼しげな目は妖艶で、なおかつ清楚にも見えた。

 着ている洋服が、清楚なお姉様系だったからか?

「男には見えなかったけれど」

「どうしてそんな発想になるのか解らないが」

 ……人はみかけじゃ解らないから。

「ともかく、あの人はパートリーダー」

「パートリーダー?」

「僕は第二ヴァイオリンだから……」

「ああ。ヴァイオリンパートのリーダー」

 頷きを返し、達哉くんを振り返ると、彼も頷いている。

「ここに来た女性なら、あの人しかいない。しかも、今は結婚して引退した」

 ふぅん。

「相変わらず、女っけのない生活してるね」

「そうだね」

 そう言って、達哉くんは私の手から楽譜を受け取って行く。

 気付けば、部屋の中は片付いていた。

「別に、僕はそれで構わないんだけどね」

「そうかな〜? でも、達哉くんて恋愛はしないの?」

「恋愛?」

「好きな人がいるって、楽しいと思うけれど」

 そう言うと、達哉くんは一瞬だけ動きを止め……

「そうだね……」

 ゆっくりと視線を楽譜に落とす。

 そのまま黙り込んで、それから小さく苦笑して。


「でも、それだけじゃないよね?」


「え?」

 問い返すと、スッと姿勢を正してつかつかと近づいて来る。

 視線の先は、私の隣り。

 ヴァイオリンをケースから取り出し、弓を取ると無言でグランドピアノの方に行った。

「………?」

 達哉くんは慣れた動作でヴァイオリンを顎で挟み、それからゆっくりと私を見る。

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