A線上の二人

「真っ暗だね」

 車から降りて、外灯も付いていない家を見上げる。

「……僕はここにいるから」

「ああ、これから皆さん来るんだ?」

 そりゃそうだよね。

 主賓がいないのに、お祝いも何もないよね。

 納得していたら、


「誰も来ないけれど」

 心の底から不思議そうに言われた。


「え?」

「誰も来ない」

「お祝いしないの?」

「これからする」

「それなのに誰も来ないの?」

「こない」

「友達少ない?」

 無言で頭に手を置かれた。

「……今日、一応は誘われたが」

「う、うん」

「面倒だから断った」

 お祝いを断るなよ。

「後日、日を改めてするから、付き合いが悪いわけではない」

 ああ、そう。

「じゃ、私だけ?」

「そう」

「うちの母さん達も呼ぼうか?」

「今日はいい」

「……そう」

 鍵を開ける達哉くんに促されて、玄関に入る。

「…………」

 誰もいない家は、どこか拒絶しているように感じて、思わず振り返ると達哉くんにぶつかった。

「……ご、ごめん」

「いや。どうした?」

「いつも達哉くんがいる状態でお邪魔するから……何だか印象が」

 もごもご呟くと、達哉くんの眉が一瞬だけ上がって、それから手を握られた。

「きっと、誰かに迎えてもらうのに慣れているからだろう」

 そういいながら、スタスタとキッチンに向かう達哉くんについて行く。

「達哉くんはいつも?」

「慣れた」

「…………」

 それは、慣れているからいい……と言う話ではないように思えた。

 確か、高校生の時まではお手伝いさんがいたはずで。

 ものすごーく静かな人で、私も何度か顔を合わせた事があるくらいだけど。

 それでも、誰かが出迎えてくれるっていうのは……実はありがたい事なんだと思えた。

< 23 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop