苦い舌と甘い指先
…そういや、今日はクリスマスイブだったな。
「…あげる奴なんて、居ない」
あ、言ってて虚しくなった。
「じゃあ、くれる奴は?」
「居るわけねぇだろ。親からさえ一度も貰った事ねぇよ」
「可哀想に」
バカにしてんのかテメェ!!
なんかすげぇ嬉しそうに笑ってるし!!
「一度も?誰からも?」
「そうだよ悪いか!!クリスマスなんてくそくらえだ!」
クリスチャンが聞いたら憤慨しそうな台詞を吐いたと同時に、信号が青に変わる。
ぴっぽー ぴっぽー
マヌケな鳩みてぇな音が鳴るのを確認して、向こう側に渡ろうと足を踏み出した瞬間だった。
「コレ。ジュノにあげる」
「え?」
振り向いた所には肥後の顔は無く、変わりにヤツの胸板があって。
相当近い位置に立っているのだと理解した瞬間、顔が焼ける様に熱くなった。
「な…んなっ…近…ッ!!」
「手、出して」
見上げる事は出来なかったけど、優しく降って来る声に従って、ゆっくりと手を差し出す。
その手にそっと置かれた小さな箱。そして。
「メリークリスマス、ジュノ。ジュノがクリスマスを好きになれますように」
やられた、と思った。
もうあたしはコイツから抜け出せない。
特別な日に特別な人から特別な事をされて、どうにかならない女なんて居るのだろうか。