苦い舌と甘い指先
ミツの母ちゃんの弁当は、いっつも冷凍食品を詰め込んでるけど
あたしはそれはそれで嬉しかったりする。
うちみたいに昨日の残りの、誰も食わなくて残った煮物をこれでもかという程詰め込まれるよりはマシだからだ。
「んまい」
「…ジュノはいっつも旨そうに食うよな。肉系ばっかり」
「だって肉と白飯が好きなんだもん」
「野菜も甘いものも魚も食わないくせに、何でそんなにでっかくなっちゃったのかなー。羨ましい。いや、恨めしい!」
さぁ…。家系かも知んねぇけど、あたしは170センチも身長がある。だからと言って太いわけでもない…っつーか、ガリガリで、付くべき所にも付いてないせいで良く男に間違われる位だ。
髪も短めで、声も低くて…。
本当に男に生まれて来た方が、色々と楽だったんじゃねぇかと思う。
こんなあたしが、将来結婚とか子どもとか、普通の女としての幸せを味わえる気がしない。
いっそ性転換でもしちまうか、とミツに冗談半分で言ったら、すげぇ勢いで怒られた。
なんだよ、ホントうるせぇ。
不貞腐れていつもの様に机に突っ伏した、のだが。
「寝ちゃうの?それなら俺が添い寝してあげようか」
「ひぃっ」
右の耳に感じる吐息、この声。どちらもあたしは知っている…!!
「変態男…!!」
鳥肌を立てながら、左方向に身体を避ける。
案の定其処には、昨日初めて話したばかりの肥後が、ぺろりと舌を卑猥に出しながら
ハ虫類の笑みで立っていた。