屍の孤島
「ゾ、ゾンビ!」

錯乱しかけた梨紅が、実に的確な表現をした。

生きた死体。

歩く屍。

こういうものを、一般的には『ゾンビ』と称する。

しかし、ゾンビなんて…。

初対面にもかかわらず、奏と夕映は思わず顔を見合わせてしまう。

ゾンビなんて、映画か物語の中だけの存在なんじゃないの?

人を襲って、肉を食らって、どんどん数を増やしていくなんて…そんな怪物、現実に存在する訳がないじゃない!

恐怖と混乱でどんなに目の前の光景を否定してみても、摺り足の集団はどんどん迫っている。

『生け贄が到着した』

白濁した眼がそう語りかけているような気がして、目を合わせてしまった奏はブルリと身震いする。

そんな中。

「……」

さしたる混乱した様子も見せず、一人冷静に走り出したのは鏑木だった。

的確な判断。

ここに留まっていては老人の二の舞になる。

その姿を見て。

「俺達も走るんだ、早く!さあ!」

恐怖でその場に蹲る梨紅の手を掴み、秀一は他の者達にも促した。

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