屍の孤島
せっかく追い詰めようとしていた獲物が、車の中に逃げ込んでしまった。

ゾンビに感情があるのならば、憤ったに違いない。

奏の乗る軽自動車に殺到したゾンビ達は、ドアガラスに、フロントガラスに、リアガラスに顔を押し付ける。

「き、きゃぁあぁぁっ!」

窓全面に押し付けられた、死者達の不気味な顔、顔、顔…。

既に瞳孔の開ききった死人の眼が、車内の奏を凝視する。

その肉を食らわせろと見つめる…!

奏は無我夢中で車のキーを捻った。

彼女も小柄ではあるが、れっきとした社会人だ。

運転免許くらい持っている。

ただ、もう数年車には乗っていない、いわゆるペーパードライバー。

こうして運転席に座る事すら久しぶりの事なのだ。

キーを捻るものの、なかなかエンジンがかからない…!

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