終わりなき想いの果てに
旅行を終えて帰宅したばかりのわたしは、早速自室に篭ると、それまでずっと隠しておいた手鏡をハンドバックから取り出した。


「やっぱり綺麗…」

改めてその細工の素晴らしさに、うっとりと魅入ってしまう。

たとえ使い道がなくても構わないくらいの不思議な魅力が、その手鏡にはある。

今まで、母に何度も骨董市に連れられ、アンティークの類いは山程見てきたけれど、これほど興味を引く品物に出会ったことはない。

どうしてこの使い物にならない手鏡に惹かれたのか、自分でも不思議だ。

「…それにしても」

磨いたら少しは使えるだろうか?

あまりに悔やまれる汚れを落とすために、わたしはハンカチで鏡面を擦ってみた。

が、年季の入った汚れはなかなか落ちず、ついついムキになってしまう。

しばし作業を続けながら、ふと気付くことがあった。

汚れているのは表面ではなく、鏡の内側のようだ。

まるで、黒い墨汁が渦巻いているような…

そんなことを思った矢先、


「あっ!!」

――ガシャン!!


ほんの一瞬のことだった。

手から滑り落ちた手鏡が、床の上で砕けて散った。

「やだっ‥」

お気に入りとなった手鏡は、見るも無惨な姿に。

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