黄昏色に、さようなら。
純ちゃんの腕の温もりを心地よい、なんて感じながらその肩に頭を預け、
取り留めもなく思考するその片隅で、
まるで砂時計の砂が落ちていくように、静かにでも確実に、記憶の欠片がサラサラと崩れていくのを感じていた。
眠りに落ちる間際のような倦怠感に、自然と瞼が降りる。
――ねえ、純ちゃん。
『うん?』
私の心の問いかけに、優しい波動が応えてくれる。
助けに来てくれて、ありがとう。
『うん』
私、純ちゃんに会えて、よかった。
『うん』
私、忘れないよ。
例え、すべてが、記憶の彼方に消えてしまっても。
何ひとつ残らなくても。
この手は覚えているから。
繋いだ手の感触をこの温もりを、ぜったい、忘れたりしないから。
『うん』
そしてね……。
『うん?』
そして、いつか、
遠い未来で、また逢えたらいいね。
応えはなく、
そっと唇に落とされた優しい感触に、あふれ出したものが頬をとめどなく伝い落ちる。
黄昏は、やがて闇にのまれて。
静かに消え行くその温もりの主と、初めての恋に、
さようなら――と。
そっと、心の中で別れを告げた。
《了》