7つ真珠の首飾り
焦げ茶色と暗い緑色が中心の夕飯を食べ、片付けを手伝って、少し妹と遊んでからまた部屋に戻る。


勉強机の灯りを点けた時、全開にした窓から急に雨が降りこんで来たので、慌てて閉める。窓越しに外を見ると、そこから見える海は灰色にのたくっていた。

波はいつもより随分高く見えた。どどどどど、と岸に打ち寄せては、がぶりと岩場をのみこむ。風で飛ばされないとしても、この家は、波にさらわれてしまうことなら有り得るんじゃないかと思った。



そして私は勉強をした。

何の為に学ぶのか、なんて考えたこともなかった。特に夢があったわけでもない。
勉強ができるということは素晴らしいことだし、勉強をさせてもらえるのは、至極幸せなことなのだと信じて疑わなかった。
私は女だし、何になるわけでもない。大きくなったら結婚をして、子供を産んで、育て、死ぬのだ。

それならどうして勉強するのだろう。
よくわからなかったけれど、勉強をしてさえいれば、須らく立派な大人になれるはずだ、というようなことを思っていた気がする。



やがて、母が私を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら家族が総出で、窓に板を打ち付けているようだった。外に、雨合羽を着た父の姿が見えた。

妹たちはどことなく楽しそうだった。良かれ悪かれ、とかく特別な日なのだ。母や父も、いつも以上にてきぱきと働いている。
台風は子供を興奮させ、大人を元気にする。


子供でも大人でもない――と、自分では思っていた――私も精力的に、大事な家が崩壊するのを防ぐ準備を手伝った。




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