ヘタレ男子の恋愛事情
「探し物?」

本を戻しながら、彼女が聞く。
一冊一冊、カバーが曲がらないように丁寧に。

「あ、…うん。でも、貸し出し中」

視線は彼女の手元へと向く。
次はしゃがんで、古い建築物が載ったハードカバーを、重そうな本が並ぶ棚の隙間へと入れようとしている。

「そうなんだ、…あれ、う、おも…」

なにやら手こずっているようである。
膝に乗せた数冊が不安定で危なっかしい。

むー、って悩む声、
なんとか本棚に納めて、
振り返り僕を見上げる顔。

本人に自覚なんてこれっぽっちもなさそうだけど、
反則じゃないですか?

上目遣いって。
や、ただ見上げてるだけだったとしても、ね?

男ってほら単純だから馬鹿だから。

その表情だけで、
ぐっときちゃうわけなんですよ。

思わずぱっと顔ごと視線をそらした僕の横で、立ち上がる彼女。

「なんて本?」

「え?」

言葉の意味を取れずに、僕は聞き返した。

「かりたい本のなまえ」

ゆっくりとした口調で返す彼女の声は、どこか子供っぽい。
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