ヘタレ男子の恋愛事情
日本文学、
英文学、
辞書、
歴史書、
地図、
機械工学・専門技術書、
……。

並んでいる本棚の分類なんて、
もう全部覚えちゃってるわけで。

探している本棚も、
その中にある本の場所も、
当然ほぼ検討がつくわけで。

つまりはそこにないってことは、
誰かが借りて行ったのだと、

そういうことでありまして。


僕は本棚の前で、
固まった。


「あれ、坪井君」

声は、
控えめで、
なのによく通る高音で。

「は、い」

驚いて返事が一呼吸遅れた。

返却された本を乗せたカートが、僕が立つ美術書・写真の棚の前で止まる。

カートを押すのは紛れも無く彼女で、
本を何冊か抱えて僕の横に立った。
ぼくはまた固まる。
というか、動くのを忘れる。



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