フル・ムーン
「こことは違う、もうひとつの世界」
この人は、何を言っているんだろう。
それでも、気がつけば、涙はひいていた。
この人が私を見るときの瞳に、安心しきっている。
「この満月の夜が明けた途端、美月は姫になる」
「姫に…?」
「やつらに奪われる前に、俺らが守る」
「俺らって…?」
頭はついていかない。
満月が半分、雲に姿を隠されていく。
なんとなく、嫌な予感がしていた。
「奪ってもいいかな。お前をこの世界から」
この、孤独な寂しさから、奪って欲しい。
それから、このときのわたしは、どうかしていたのかも。
でも、彼が差し出した右手をそっととった。
「あの…お名前はなんていうの?」
「俺?」
「う…うん」
彼はにこっと微笑んだ。
「…巧」
耳元に囁かれる声。
タクミ
頭でもう一度繰り返してみたとき、足元がぐらついて、視界が真っ黒になった。
………――――
.