時雨の奏でるレクイエム
「あ……っうう……ぅぁああっ!!」

魂が引き裂かれるような苦しみ。
気絶してしまいたい……眠ってしまいたい……でもこの痛みがそれを許さない。
視界がぼんやりと白い闇に染まっていく。
――これが、強制連結の……痛み!
クルーエルは身を縮めることもできず、ただ光に奔流されていた。
永遠のように感じるこの痛み。
実際はほんの一瞬のことのはずなのに、なかなか終わりが来ない。
もどかしい。痛い。苦しい。
それはいつしか言葉の形をとらなくなって、ただクルーエルの胸の奥に渦巻く。
――たす、けて。
紅い瞳が脳裏にちらつく。
もはや、自分が誰に助けを求めているのか、それすらわからずにクルーエルは手を伸ばした。

その手をだれかが取った。
そして、一気にクルーエルを引き寄せる。
ぐらり、とクルーエルは目眩を感じて気を失った。
最後に、こちらを見つめる紅い瞳を確かめて。



「……れ?」

クルーエルが目を覚ますと、そこはただの暗闇だった。
なにもない、空間。

「目が覚めた?」

突然クルーエルの目の前に、光の螺旋と共に少年が顕れた。
クルーエルは、はっとしてその少年を見つめる。
紅い瞳、銀の髪。
ラディウスとは似て非なるその少年。
歳は、12くらいだろうか。自分よりも年下に見えた。

「感謝してね。僕がここに君を引き寄せなきゃ、強制連結の痛みで死んでたところだ」

「……あ!そうだ!……ここが、幻獣界?」

「おいおい、しっかりしてくれよ。まだ完璧には幻獣になってないだろ?幻獣界にニンゲンは入れないよ」

「あ、本当だ……」

クルーエルの魂に、幽かだがノインの魂の残滓がある。
中途半端に連結したせいで、ノインの魂は還りきれてなく、自分も幻獣化していない。
ただ、ちょっとしたことでその連結は為されるだろうが。

「ねえ、貴方、名前はなんていうの?」

「僕?」

少年はきょとんとして、それからああ、と呟いた。

「僕の名前はリズナード。幻獣でも人でもない。君のための、神の残滓だよ」

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