時雨の奏でるレクイエム
「ここだよ」

突然クルーエルが呟いた。

「ここが、ラディウスの隣が、旅をしていたときみたいに、二人きりで話していた時間、全部が……私の居場所。私の失くしたくないもの」

「え……」

虚を突かれて絶句するラディウスをよそに、クルーエルは両手を祈るように合わせて歌った。

『言祝ぎの詩よ、今こそ詠い、奏でるさだめならば……私は夜の光に導かれ、貴方に愛と、祝福と、再会を約束します。音が貴方を見捨てないように、孤独にしないように、常にそばにいると誓います』

ふわりとクルーエルの衣が下から湧き上がる光と風に持ち上げられはためいた。
クルーエルは手をほどき、差し出すようにして両手を目の高さまで上げた。
それはとても神々しく、しかし虚ろで……ぞっとするほど美しいものだった。

「あ……」

光と風が消えたとき、クルーエルは突然手に持っていたものをラディウスの胸に押し付けた。
慌ててラディウスがそれを受け取り、顔を上げると、クルーエルがさっきよりも近くでラディウスに向けて微笑んでいた。
少し寂しそうに。

「また、二人で旅ができるといいなぁ……それに、ラディウスのお嫁さんになれたら……もっといいのに」

「な、クルーエル?」

ラディウスが呼びかける前にクルーエルは走って行ってしまった。
引きとめようとしても、手の中のものが絡まって遅れてしまい、届かなかった。

「考えたことも……なかった。でも、それが本当なのか」

ラディウスはぽつりと呟くと手の中のものを見た。
それは、音の幻結晶と銀で作られたネックレスだった。
ラディウスはそれを見てつい、と首をかしげた。

二人が見ていない間にも光は一塊にここに集まってきていた。
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