時雨の奏でるレクイエム
「ラディウス……」

クルーエルの声音には、説明しろという言葉が含まれていた。

「……あれは、りんごじゃない」

「……?」

「……スズリという苦い木の実だ。見た目は青いりんごだが、りんごはもっとずっしりといている」

「で、でも……赤かったよ?」

「見えなかったか?ヘタに赤い塗料がついていた。実には綺麗に塗られていたが」

「わ、わかるわけないもん!!」

クルーエルはしばらく後ろでぶつぶつ文句を言っていたが、ラディウスが立ち止まると、口を噤んで不思議そうにラディウスを見上げた。

「好きなの選べ……ただし、旅がしやすい軽装だぞ?」

クルーエルはラディウスの視線をなぞった。
とたん、クルーエルの瞳が今までで一番輝いた。
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