時雨の奏でるレクイエム
突然ふらっとクルーエルの身体の力が抜けた。
ラディウスは慌ててクルーエルの身体を支える。
クルーエルは気を失ったようだった。
呼吸は……してる。
熱もない。
脈は遅いが問題無いだろう。
ラディウスはほっと息をつくと、改めて周囲を見渡した。
相変わらず、人が外にいないようだ。
ラディウスはしばし逡巡してからクルーエルを抱えなおした。

「私の名はラディウス!リオー要塞にてアルミナ殿からコウサ村でのモンスター討伐の任を仰せつかわれた者だ!病人がいる、誰か家に入れていただけないだろうか!」

ラディウスは声を張り上げた。
これで誰も何も反応しなければ終わりだ。
クルーエルも目を覚まさないかもしれない。
モンスターの情報もなく、一人で立ち向かっても犬死するだけだろう。
しかし、どうやらこのフェアルーンは二人を見放すつもりはないようだった。

「本当?」

ラディウスが顔だけ後ろに向く。
そこには、自分達より少し年上に見える村娘が立っていた。

「アルミナ様から仰せつかったって。あの恐ろしい化物を退治してくれるって」

村娘の瞳には余裕が感じられない。
本当にせっぱつまっているようだ。

「ああ」

ふいに、村娘の瞳が揺れる。

「お願い。私の姉を救って」
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