gently〜時間をおいかけて〜
いつもの調子で、母親の名前が唇から滑り落ちそうになっていた。

まだ莢は母親じゃなくて、大学生だったから。

「――そうか…」

父親はそれだけ答えただけだった。

そう言えば、久しぶりに父親の顔を見たなと俺は思った。

けど久しぶりに見た父親の顔は、もうすっかり年をとっていた。

黒かったはずの髪は、白髪が目立つようになっていた。

痩せこけてしまった頬は、仕事のストレスが原因だろうか?

首にはいつの間にか何本かシワが目立っていた。

久しぶりに見た父親の顔に、俺はずいぶん年をとったんだなと思った。

「親父こそ、どうしたんだよ?

仕事は?」

そんな父親の顔を見ながら、俺は聞いた。
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