gently〜時間をおいかけて〜
父親は、まだ眠っている母親に視線を向けた。

――ああ、またこんなにも痩せていた。

つられて俺も視線を向けると、ベッドのうえで眠っている母親に対してそう思った。

もう病人と言っても過言ではないくらいに、母親は痩せていた。

「俺がいなくなれば、母さんは自由になれる。

俺のせいで、つらい思いをしなくてもいい。

寂しい思いをしなくてもいいから」

父親は視線をそらすと、今度は俺に視線を向けた。

「――航、母さんを頼んだぞ…」

静かに、父親が言った。

「――母さんを、支えてやってくれ」

そう言って父親が病室を出ようとした時、
「――待って…!」

俺は、呼び止めていた。
< 150 / 202 >

この作品をシェア

pagetop