gently〜時間をおいかけて〜
「お母さん?」

泣きそうな声で呼んだ。

「お母さーん!」

声のボリュームを大きくして、俺は叫んだ。

狭い家に響くのは、俺の声だけだった。

母親はいない。

姿もなければ、声も聞こえない。

「お母さん!

お母さん!」


ハッとなって躰を起こすと、カーテンのすき間から朝の光が差し込んできていた。

冬の朝独特の寒さに、ブルリと躰を震わせる。

「――寒ッ…」

そう呟いた後、莢の方に視線を向けた。

「――莢…?」
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