gently〜時間をおいかけて〜
目の前にいたのは、例の男だったからだ。

喫茶店で、必ずあたしの視界に入る席に座っている彼だったからだ。

今日も深く帽子をかぶっているせいで、その顔はわからない。

「――何ですか?」

あたしは男に聞いた。

「少しだけ、よろしいでしょうか?」

男の唇が動いて、音を発した。


彼に連れられるように入ったところは、やっぱり学校近くの喫茶店だった。

入って注文したはいいものの、彼との会話は全くなしだった。

何なのよ、これ。

つい首を縦に振ってうなずいてしまった自分を恨んだ。

「――あの、何の用ですか?」

沈黙に耐えることができなくて、あたしは彼に尋ねた。
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