さくら木一本道
(龍巳)「ハイハ~イ!! 俺、さくヤンのダジャレ思いつきました!!」
(勇次)「さくらのダジャレぇ!? もう何なんだコイツ!!」
(さくら)「私ムカついて来たわ…」
そんな勇次たちを無視して、龍巳はカバンから折り畳み傘を取り出して開き、
まるで、時代劇の役者のように傘を回しながら肩の上に乗せ、斜め上を見上げて言うのだ。
(龍巳)「……そろそろ、桜(さくら)が咲くやん…」
(勇次)「……」
(さくら)「……」
どこがダジャレなんだ?
「さくら」と「桜」をかけているつもりなのか?
ああ…なるほど、「咲くやん」と「さくヤン」もかけているのか、
なんて分かりづらい、ダジャレというものを理解してからしゃしゃり出て欲しいものである。
(龍巳)「じゃあもう一つ… さちゃみ(さくら)ぺちゃパイ!!」
(勇次)「な!!?」
さらにしゃしゃり出た上に、言ってはいけない言葉を言ってしまった。
胸のことはさくらの殺意を増す、超危険な禁止用語なのである。
(さくら)「ぬりやあぁぁぁぁ!!!!」
‐ドカッ!!!‐
(龍巳)「えふッ!!!」
さくらはついにキレて、龍巳を殴り込みにかかった。
もうここまでキレたさくらを止める術はないのだ。
(さくら)「シバく!! 骨の髄までシバく!!」
(龍巳)「ぎゃああああ!!! 助けてくれ勇次ぃぃぃぃ!!!」
(勇次)「……」
勇次は今分かった…
さくらは「男嫌い」なんじゃなくて「男に対して顔見知り」なんだと、
顔見知りは、ある程度の心の境界線を越えてしまえば、人と普通に話し合う事が出来る。
例えば相手の性格が分かり、その相手に対して「冗談を言えるようになる」とか、ようは自分をさらけ出すきっかけがあればいいのだ。
今回さくらが心の境界線を越えるのに「暴力」と言う手を使ってしまったが、
おかげで龍巳とも―
(龍巳)「いってぇぇぇぇ!! さくヤン髪の毛を引っ張らないでぇぇぇぇ!!」
(さくら)「うっさい!! 死ね!! 朽ち果てろ!!」
この通りだ。
もうありのままの自分をさらけ出してる。
(龍巳)「勇次ぃぃぃぃ!!」
(さくら)「ガルルルルル!!」
(勇次)「……でも、こんな事になるんだったら本性なんて見ない方がいいかもな… てか「さちゃみ」って…」
しばらくして、さくらは十分に暴れ終えたのだが、その頃には、龍巳の有り様は使い古した雑巾のようになっていた。
(さくら)「フンッ!!」
さくらは不機嫌に鼻息を強く吐き、二階へと消えていった。